本研究は、「帝国」という和製漢語の思想史的変容について考察するものである。 本年度の口頭発表において、「帝国」ということばが、語源的には西洋語の「keizerrijk」(オランダ語・Kaiserreichドイツ語)に由来するものであるという事実を指摘した。このことには、多くの参加者の関心を惹起させることができた。 本年度では、「帝国」ということばが、儒学(漢字)文化圏において成立し、使用されたことは以下のような自他認識の転換をもたらすものであったことを明らかにした。 1主権国家相互がその独立性を承認しあうという近代的国家間観念受容の助けとなった 2日本を「皇帝」(=天皇)を元首とする「帝国」と認識する自民族中心主義的言説を生んだこのような思想史的展開を明らかにすることで、たんなる語源論に終わらない研究の在り方を示すことができたと考えるものである。 論文や著書では、本研究開始以来の新たな知見-とくに会沢正志斎おける「帝国」認識に関するものを、もり込んでいくことで、叙述の内容をいっそう充実させることができた。 会沢は、『北槎聞略』をはじめとした海外知識を貧欲に摂取し、これを主体的に読み替えることで、独自の「帝国」論を構築したのであり、これがやがて多くの19世紀日本知識人における世界認識の一つの基礎を形作ったのである。今後は、会沢正志斎を一つの軸に、「帝国」概念の思想史的変容を明らかにしていこうと考えている。
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