1、天理大学附属天理図書館吉田文庫所蔵の神社関係資料の分析・研究と資料の追加収集 前年度に天理図書館吉田文庫において調査・収集を行った、吉田家の作成・蒐集した神祇・神社関係資料の整理と分析を進めた。それら分析の中で、従来、中世期における同家の神社研究の代表的成果とされてきた『諸社根源記』系諸本と、同家の神社言説受容の有り様を如実に留める中世後期の聞書類や同家累代当主の日記(『日次記』)との関わりが多分に見いだされ、同書及び同系諸本が同家の神社研究を考察する上で根本的な資料となり得るものであることが再確認された。加えて、それらの内容の分析から、同家の神社研究には『延喜式』「神名帳」(以下、「式神名帳」という)に対する関心及び研究が通底していることが理解された。以上より、1)天理図書館及び代表者が所属する國學院大學図書館において『諸社根源記』諸本を中心とした吉田家関係の資料の追加調査・収集、を行うとともに、2)「式神名帳」関連資料の収集、を進め、前年度の収集資料との比較研究を進めてきた。 2、資料の調査・分析による研究成果とその意義 収集資料の整理・分析の過程で、吉田家の神社研究はすでに南北朝時代にはその萌芽がみられ、中世後期の吉田兼倶や兼右などの当主はそれら父祖の学問を継承・発展させてきたことが改めて確認された。また、前述の通り、それら同家の神社研究という学問的伝統の根底には「式神名帳」という古典に対する関心及び研究活動が存在することが確認された。ただし、それらは単なる古典研究という範疇にとどまるものではなく、同家が神祇道家として諸国の神社への影響を強くしていく中で必要不可欠の営みであり、すなわち「式神名帳」とそれらに基づいた神社研究が、神祇道家としての同家の確立を支えた重要な拠り所の一つであったことが理解された。
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