本研究は、日中商人の「義・利」「公・私」の比較研究によって、伝統商人の倫理観を解明することで現在、経済界における経済倫理問題の解決に示唆を与えたいと思っている。今年度は「官」と「商」の関係および商人団体の国家観念を視野に入れながら、中国の官僚と商人がいかに博覧会をみていたのかを考察したと同時に両国間における実業団の交流を検討した。 1910年、中国で初めて官僚が主導した国際的規模の博覧会、即ち南洋勧業会が開催された。『中国早期博覧会資料〓編』や『蘇州商会档案〓編』などの史料集を分析したことで、南洋勧業会が本格的に開幕するまで清末の開明的官僚たちは重要な役割を果たしたことが判明した。そのなかで、もともと「農を本とする」当時の中国社会において、「官商」をはじめとする官僚はいかに博覧会のことを理解し、どのように実業と富国との内在的関連をとらえていたのかを明らかにした。そこから紆余曲折を経た中国の実業発展の一角を浮き彫りにした。 また博覧会への着目によって日中両国間における実業団の交流は始まったことが分かる。とりわけ、近藤廉平渡清実業団の活動を記録した『赴清実業団誌』を考察することを通じて、日中両国の実業家たちがいかに「同文同種」という観念を理解し、さらに両国の経済的提携についていかなるビジョンを持っていたかを理解することができた。そのなかで、当時の日本の実業家は中国の経済に対してある程度の同情心を示していたことが推察される。一方、両国の実業家たちが相互の連携を考えていたとしてもライバル意識を終始持っていたことも窺われる。 ただ、両国の実業団は具体的にどのように政治と実業との関係を認識していたかは、当時の言説をみる限り、まだはっきりしていない。これを今後の課題としていきたい。
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