1. 明治・大正・昭和初期に日本で発行された美術・文芸雑誌を対象として、ホイッスラーに関する雑誌記事や図版として掲載された作品の調査を行った(ホイッスラーを題材とした記事だけでなく、ホイッスラーが言及されているものも含む)。 2. ホイッスラーの作品等について言及している明治・大正・昭和初期の文芸作品についての調査を行った。 3. 東京藝術大学図書館に収蔵されていたホイッスラーに関連する欧文の美術書・美術雑誌の所蔵調査を行った。 収集した基礎文献のうち、今年度は明治期における林忠正、岩村透、久米桂一郎によるホイッスラーについての言及や紹介記事を中心に分析を行い、明治近代美術の流れの中でのホイッスラーのイメージ形成について小論をまとめ、現在投稿中である。これらの調査や中間的なまとめを行うことで、明治期における「美術」という概念の形成にホイッスラーの芸術的信条が少なからず影響を与えたことが明らかとなった。そこで、今後は美術と文芸運動における唯美主義の概念の日本への移入へと研究を発展させていく。つまり、この観点から、ホイッスラーが19世紀末から20世紀初めにかけて日本においてどのように理解され、文芸運動に影響を与えたのか、またイメージとテキストとの関連についての研究を進めていく。特に、ホイッスラーの作品が文学界に影響を与えた背景には、『明星』にはじまる日本近代における美術と文学の接近が背景にあると考える。ホイッスラーのインパクトが文学界に及ぶ前段階について調査・研究を行うことは、文学と美術の交差点である文芸の姿を明らかにするために重要であると考えている。
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