本研究は、アメリカ人の画家、J.McN.ホイッスラーの日本における受容、特に明治・大正期を中心に行うものである。資料収集とその整理、分析を丁寧に行い、また明治・大正期に制作された美術作品だけでなく、文学作品への影響も検討した。具体的22年度に行った研究内容は以下である。 文献収集、収集した文献の整理、精査を行った。特に、文学関連の資料の収集、整理、分析で明らかになったことは、明治から大正期にかけて、「文芸」というカテゴリーの雑誌が多く出版されたが、ホイッスラーがこれらの雑誌において様々な文脈のなかで引用され、解釈されたことである。資料中に図版として掲載されているホイッスラーの作品、特に彼が日本から影響を受けて制作した作品は、明治・大正期の作家たちの創作意欲を刺激した。ホイッスラーの「芸術のための芸術」の解釈は、日本における西洋芸術・文学の受容のなかでも中心をなすものであり、彼の唯美主義の思想と日本美術とのつながりのなかに、日本の芸術家たちが自らの文化的アイデンティティーを見出した一面も垣間見ることができる。 今年度の研究では、日本における資料のみでなく、海外にも目を向けて調査を行った。国立スミソニアン協会フリーア美術館のアーカイブにおいて書簡についての調査を行い、ホイッスラーと直接接点をもった日本人、あるいは相互の影響関係のキーパーソンとなった人物を見出す作業を行った。今後もこれらの書簡や資料の文献を分析することで、ホイッスラーの日本における受容や解釈について、新たな展望を見出すことができると考えている。
|