本年度は、研究の最終年度であることから、過去3年間の調査・研究の総括を行うとともに、次の研究に続く課題を明らかにした。 研究の総括としては、J. McN.ホイッスラーの日本における紹介と受容について、これまでの個々の事例を分析した。その結果、ホイッスラーが唯美主義者として見出した西洋と東洋の芸術の根底にある原理原則が、日本の近代美術においても共感され、日本における受容のきっかけと広がりが、この点にあったことが明らとなった。しかしながら、受容する側、つまり日本では「美術」という言葉と概念が整う過程にあったことから、芸術至上主義そのものを十分理解した上でのホイッスラーの作品理解ではなく、むしろもっぱら自国の美術が「気鋭の芸術家に認められた」あるいは「影響を与えた」ことへの関心であったように思われる。画壇や文壇においてホイッスラーの芸術理論について理解を試みつつも、西洋と日本の美術や芸術という概念の相違から、「異文化理解」という視点から抜け出すことのできない姿が浮かび上がった。また、ホイッスラーが東洋からインスピレーションを得て確立した独自の油彩画技法という点について、収集した文献の中にこのことについての言及を見出すことはできなかった。しかし、技法という点においては、銅版画家としてのホイッスラーの技術の高さが評価され、特に昭和初期にエッチングについての関心が高まった際には、ホイッスラーの優れた技術が注目されたことが、『エッチング』等の版画雑誌を調査したことで明らかとなった。 本研究での成果を次の研究につなげるために、V&Aやアーカイブにおいてホイッスラーの版画作品や、彼のパトロンが所蔵していた日本の版画作品等の調査も行い、さらに今後の日欧の芸術交流の背景を含めた研究課題を見出すことができた。
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