平成21年度に立てた理論的仮説のもと、研究計画に基づき、平成22年度は具体的な事例研究を中心に遂行した。なかでも、平成22年度の仕事の中心は、現代アメリカ写真の検討である。まずは、写真に表象されるデモクラシーの価値は固定的ではなく、揺らぎつつ生きられているという仮説のもと、具体的写真でデモクラシーがポジティヴなベクトルで捉えられるものとネガティヴなベクトルで捉えられるものとに分類・整理をした。そしてデモクラシーの揺れに応じて写真を把握し、マッピングした。特に、現代アメリカ写真においてカラー(色彩)を幕開けしたとされる最重要の写真家のひとり、ウィリアム・エグルストンの作品が、デモクラシーという問いを巡って、そう語られるようにはポジティヴなデモクラシーの価値を自明的に表象しているのではないことを確認した(エグルストンの主要な写真展や写真集などには、しばしば「デモクラシー」の語が付されており、多くの批評もその路線で評価している)。そもそもエグルストンの作品が表象しているものがデモクラシーと評定できるのか否かを再考したのち、しかし同時にエグルストンの作品にデモクラシーとはアメリカにとっていかなる価値であるのかを思考させるモメントが埋め込まれていることを確認した。その成果は、論文(「写真の森に踏み迷う-ウィリアム・エグルストンの世界」)として発表することができた。本論文では、これまであまり分析的に捉えられていなかったエグルストン作品におけるデモクラシーのモメントを探ることができた。
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