研究概要 |
本研究は日本における美術館アーカイブズのあり方を追求するものである。美術館アーカイブズの範囲として、設立経緯を示す文書や事業遂行に関する文書、作品寄贈・購入文書、展覧会記録・会場写真、音声・映像資料に加え、美術館が外部に向けて発信した資料である展覧会カタログ、広報用資料、さらに美術館特有の資料として美術作品の画像・複製写真、一過性資料など広範な資料を対象とするが、これは欧米の美術館アーカイブズ(museum archives)がこれら多様な資料群を美術館図書館(museum library)と一体となって整理公開している状況を念頭においたものである。 平成22年度は、1)ベルリン国立博物館群の中央アーカイブを訪問し、創設50年を迎える同館の活動の概要について視察すると共に、第二次世界大戦による作品略奪等をめぐる新しいアーカイブ・プロジェクトについて視察した。2)ザクセン州立アーカイブで美術作品の複製写真アーカイブについて資料収集を行った。3)国立西洋美術館の音声記録(カセットテープ、CD)およびポスターの第一次整理作業に着手した。4)美術館創設に関する資料(とくにコレクションおよびコレクターについて)の収集と整理・公開について検討に着手した。5)国文学研究資料館アーカイブズ・カレッジに参加、修了論文として、2010年10月から翌1月まで現地に滞在したカナダ国立美術館のアーカイブズ部門を素材とし、美術館アーカイブズとしての活動について考察した。同部門の活動の大きな特徴の一つは、開催実績数2,000を超える展覧会の記録資料を整理し、図書館システム上で公開している点である。カナダのアーカイブズ記述標準RADの特性を生かし、アーカイブズに関する情報を、伝統に培われた安定的稼働が期待できる図書館システム上で公開するという解決策は、美術館アーカイブズをめぐる一つの規範を示すと考えられる。
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