本研究は日本における美術館アーカイブズのあり方を追求するものである。美術館アーカイブズの範囲として、本研究では美術館活動の設立経緯を示す文書や事業遂行に関する文書、作品寄贈・購入文書、展覧会記録・会場写真、音声・映像資料、その他の業務文書に加え、美術館が外部に向けて発信した資料である展覧会カタログなどの出版物、広報用資料、さらに美術館特有の資料として美術作品の画像・複製写真、一過性資料(新聞記事切抜き、小冊子、展覧会チラシ、絵はがきなどのエフェメラ)など広範な資料を対象とするが、これは欧米の美術館アーカイブズがこれら多様な資料群を美術館図書館と一体となって整理公開している状況を念頭においたものである。 平成23年度は、米国においてシカゴ美術館、イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館等のアーカイブズを視察・訪問し、またアメリカ・アーキビスト協会シカゴ大会の美術館アーカイブズ分科会に参加して米国における美術館アーカイブズに関する動向の把握と情報収集を行った。また、国立西洋美術館における実践に関して、未整理のまま紙焼きを紛失してしまったため内容が不明だったネガ・フィルムについて、整理の第一段階としてデジタル・スキャニングおよび写真出力を行う一方、当館設立に関連の深い資料としてこれまで蓄積されてきた松方コレクション売立カタログについて、研究資料アーカイブとしての価値づけを行いつつ、公開に向けての整理・準備作業に着手した。一方、アーカイブズそのものとは言えないものの、アーカイブズ活動ときわめて密接に関連する組織体の歴史の蓄積と共有を企図し、公式ホームページに関連ページの新設を行った。さらに昨年度カナダ国立美術館の調査で得た成果について、関連学協会での発表を行った(川口雅子「美術館アーカイブズが守るべき記録とは何か:カナダ国立美術館の事例を中心に」『国文学研究資料館紀要アーカイブズ研究篇』2012年、第8号、および川口雅子「海外博物館だより カナダ国立美術館のアーカイブズ事情」『博物館研究』2012年、46(12)号)。
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