鎌倉幕府が開かれてから古河に鎌倉府が移転するまでの13~14世紀を中心に、鎌倉文化圏における絵画の制作および流通、宋・元時代絵画の受容の諸相を明らかにすることを目的として研究を行った。主な実績は次のとおりである。(1)作品調査の成果を反映させた関連作品のデータベースを作成。(2)本研究に関連する諸作例について作品調査を行った。(3)文献史料を中心に東国における絵画制作、流通に関する記事を収集した。(4)中世の鎌倉文化圏において制作された縁起絵巻や掛幅縁起を主たるテーマとした展覧会(2013年秋予定)の準備を進めた。(5)宝生寺(横浜市)所蔵絵画の調査、研究を行った。宝生寺所蔵の絵画には鎌倉から室町時代に制作された東国様式を示す仏画が多く伝存している。そのうち、涅槃図と羅漢図を中心に作品調査、研究を行った。成果の一部は所属機関の展覧会「涅槃図」の解説や論文(梅沢恵「宝生寺所蔵の二種の羅漢図について」『神奈川県立博物館研究報告』38)等で発表した。(6)月1回、鎌倉・円覚寺所蔵の五百羅漢図についての研究会を行った。(継続中)本作品は三十三幅が中国・元時代、十六幅が室町時代、一幅が江戸時代の補作からなり、鎌倉における外来文化の受容、作品の移動の問題を考える上で重要な作例である。各幅の画題についての検討を行い、画面に描かれている器物や人物の表現について詳しい注記を施す作業を進めている。(7)光明寺(相模原市)所蔵の夢窓疎石像の調査研究を行った。画中には元時代の月江正印の賛があり、構図は妙智院本に倣う半身像であるが、金欄の袈裟を着す点などは円覚寺黄梅院本とも近い。成果の一部は特別陳列「夢窓疎石と鎌倉の禅宗文化」(2012年9月)の展示解説、図録等で報告予定である。
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