前年度までの研究成果に続いて今年度は、日本における朝鮮美術評価について柳宗悦を中心とする「民藝」以外の三つの側面からの考察を目的とした。 これに対し、(1)植民地朝鮮における淺川伯教・巧、山田萬吉郎など在朝鮮の日本人を含む研究者および収集家たちの人的交流および研究・収集活動については、韓国近代美術史研究者との日韓研究集会において意見交換および文献調査を行った。また(2)日本による高麗時代の青磁・朝鮮時代の陶磁の再現研究については、資料調査を行い官と民の両面から日本側の朝鮮陶磁評価を考察した。(1)、(2)については第26回アジア近代美術研究会(於:福岡市美術館)と、共同研究会「《東洋美学・東洋的思惟》を問う:自己認識の危機と将来への課題」(於:国際日本文化研究センター)で研究発表を行った。その他、(3)古陶磁研究を行った板谷破山、石黒宗麿、富本憲吉など日本近代の代表的な陶芸家についても作品調査を行った。また、植民地期から1950年代の在朝鮮日本人画家である加藤松林人ら日本人美術家と朝鮮人の在野作家金換基らの朝鮮陶磁に関連した作品および文献調査を行った。(3)については、日本と朝鮮における陶磁器分野に限らず、絵画・彫刻といったいわゆる「骨董収集」の側面とは異なる美術界の朝鮮陶磁評価について考察を広げた。これにより植民地期・解放期において朝鮮の文化知識人たちが日本的価値観から離れた独自の「朝鮮美術史」を整理する中で、高麗・朝鮮時代の陶磁器をひとつの柱としたことが結論付けられた。これに関連し当初の研究目的から更に時代を広げ、植民地時代以後の韓国における陶磁評価の比較・考察へとつなげた。これについては、解放以後から1970年代までの韓国における朝鮮陶磁研究と評価の変遷を考察し、第39回東洋陶磁学会大会「東洋陶磁研究の100年を振り返る-東洋陶磁史はどのように語られてきたか」(於:根津美術館)で口頭発表を行った。
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