本研究は中世仏教絵画における図像の持つ意味や機能について、学僧や貴族といった個人の造像という観点から考察するものである。特に南都を中心に制作された、異なる図像源泉を持つ複数の独尊像を再構成した作例をその対象とする。東アジア交流史の中での当該仏画の位置づけをも意識し、南宋から元時代の所謂「寧波仏画」などにも注意を払いつつ研究を遂行する。 今年度は復興期前後の南都における作画活動の実態を知る上で重要な、さらには影響を与えたと目される絵画遺例の調査を中心に行った。とりわけ、メトロポリタン美術館、バーク財団、ボストン美術館を中心とした、米国東海岸所在の遺例をその調査対象とした。具体的には、「十一面観音影向図」「十一面観音来迎図」「観音経絵巻」「慈恩大師像」(何れもメトロポリタン美術館蔵)、「春日宮曼荼羅」(バーク財団蔵)、「法華堂根本曼荼羅」「馬頭観音像」「如意輪観音像」「平治物語絵巻」(何れもボストン美術館蔵)などに加え、本研究の主要な課題の一つである「図像」の持つ意味やその表現を考察するため、下記図像集の調査も行った。「真言諸尊図像」「九曜秘暦」「金胎仏画帖」(何れもメトロポリタン美術館蔵)などの諸作例である。 また、南都絵師がその制作に関与したことが想定される宮曼荼羅についても考察の対象とし、調査研究を行った。特に「柿本宮曼荼羅図」(大和文華館蔵)については、鎌倉時代後半の南都絵師の動向を探る上で重要な作例であると位置付け(『美のたより』173号)、「春日宮曼荼羅」(ボストン美術館蔵)や「高野山曼荼羅」(ハーバード大学美術館蔵)などの関連作品の調査、及び研究発表を行った(海外シンポジウム「中世日本の信仰と造形」での研究報告)。以上のように、今年度は主として、作品調査を通じて鎌倉時代を中心とした南都の作画状況について総合的に分析・考察を行った。
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