本研究は中世仏教絵画における図像の持つ意味や機能について、学僧や貴族といった個人の造像という観点から考察するものである。特に南都を中心に制作された、異なる図像源泉を持つ複数の独尊像を再構成した作例をその対象とする。東アジア交流史の中での当該仏画の位置づけをも意識し、南宋から元時代の所謂寧波仏画などにも注意を払いつつ研究を遂行する。最終年度に当たる本年度は、前年度に引き続き白描図像や当該期の仏画遺例の作品調査及び、成果の公表に留意して研究を遂行した。 具体的には、玄証本の白描図像である「金剛夜叉明王」「軍荼利明王」(メトロポリタン美術館蔵)、「先徳図像」(東京国立博物館蔵)、「十六善神図像」(東京国立博物館蔵)や、「如意輪観音像」「宝楼閣曼茶羅」「普賢菩薩像」(何れもフリア美術館蔵)など、平安時代から鎌倉時代にかけて描かれた白描図像や在外仏画の優品を中心とした作品調査を行った。 研究成果の公表は、尊像のみならず景観表現の規範性に注目し、南都の絵師が制作に関与したと目される「春日宮曼茶羅」や「柿本宮曼茶羅」(大和文華館蔵)などの宮曼茶羅に関する知見をまとめた(『大和文華館の垂迹画』)。 また近年、仏教絵画との図像や表現に強い関連を示し、注目を浴びているマニ教絵画については、大和文華館にて「開館50周年記念特別企画展 I 信仰と絵画」(2011年5月14日~6月19日)を開催した。マニ教絵画や関連する元時代の仏画を一同に展示し、併せて国際シンポジウムを開催することにより、広く研究成果の還元を行った。 以上のように、図像の解析と再構成を軸に、日本の中世仏画のみならず、元時代の仏画やマニ教絵画にまで視野を広げて考察を行うことが出来、今後の研究の進展に繋がる有意義な年度となった。
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