本年度はハンガリーの「国民楽器」ツィンバロンの受容史を中心に研究をすすめた。まずこれまでの研究成果をもとに、7月にロンドン大学で行われた英国音楽協会(Royal Musical Association)年次大会にて学会発表を行った。その後、発表の反省をふまえつつ、8月から9月にかけてハンガリーのブダペストで資料を収集した。具体的には、同時代の新聞・雑誌・楽譜の閲覧・コピーを行ったほか、音楽学校の年報や名簿などを調べ、19世紀末の時代、打弦楽器ツィンバロンがブダペストや地方の音楽学校において、どのくらい教えられていたのか、その実態をかなりの程度明らかにすることができた。とりわけ、女性を中心とするような、中産階級のサロンに(かつてはロマの楽器としてのみ知られていた)この楽器が受け入れられていたことが分かったのは、大きな収穫だった。女性史や「国民化」運動の社会史との接点を意識しつつ、今後も調査を続けていきたい。2011年2月には民族藝術学会例会でも学会発表を行った。今後はこれらの発表原稿をもとに、いくつかの論文を書くことができればと考えている。そのほか、本年度はハンガリーの民謡研究の歴史と関連して、バルトークの記譜のスタイルをめぐる論文を一本執筆・投稿することもできた(査読はすでに通過しているが、刊行は平成23年度、つまり次年度となるので、本年度の業績欄ではそのことにとくに言及していない)。
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