研究課題/領域番号 |
21720044
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
太田 峰夫 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教 (00533952)
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キーワード | 西洋史 / 芸術諸学 / 民俗学 / ナショナリズム / 民族誌研究 / ハンガリー / 西洋音楽史 / バルトーク |
研究概要 |
本年度も前年度に引き続き、ハンガリーの「国民楽器」ツィンバロンの受容史を中心に研究をすすめた。2011年2月に民族藝術学会例会で行った発表をもとに、本年度は学会誌『民族藝術』に論文を発表した。これは19世紀末のハンガリー人ツィンバロン教師アッラガ・ゲーザがそれまでのロマのツィンバロン奏者の装飾過多な演奏スタイルをいかに相対化したかを論じたもので、ツィンバロンが「国民楽器」として受け容れられていく中で、演奏習慣が西洋化・近代化をとげていった様子を明らかにした論考である。また東欧史研究会においても2011年10月に発表を行い、ハンガリー市民社会におけるツィンバロン受容の歴史を女性の「国民化」と関連づけて論じた。ここでは女性たちがツィンバロンをサロンの楽器として演奏するようになったことを、文化ナショナリズム運動へのハンガリー人女性の参画と関連づけて論じた。この発表の成果を同月中に論文にまとめ、文化資源学会の機関誌『文化資源学』に投稿した。現在この論文は査読を通過し、編集作業中である。昨年度始めた19世紀末から20世紀初頭にかけてのツィンバロン学科の学生原簿の調査も継続したが、残念ながらこれについては年度内にデータを分析するところまでいかなかった。これに関しては最終年度(2012年度)中に調査結果をまとめ、国内学会にて口頭発表し、論文を投稿するところまで持っていきたいと考えている。そのほかにハンガリーの民謡研究の歴史と関連して、バルトークの記譜のスタイルをめぐる論文も2011年6月に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「国民楽器」ツィンバロンの「改良」、ツィンバロン教育の近代化の問題を当時のハンガリー市民社会の文化ナショナリズム運動と結びつけて論じる、という部分に関しては、当初の構想通り順調に進んでいると言える。ツィンバロン関係の論文が(編集作業中のものも含め)2本書けたのは大きい。女性の「国民化」のような当時の社会の問題とも関連付けることができたのは、当初の計画以上の成果とも言えるかもしれない。ただツィンバロン研究に集中するあまり、「国民楽器」の問題圏が民族誌研究のそれとどのように関連するのかが、やや曖昧になってきているところもあるので、ここで一度視野を広げて問題を整理する必要があるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究課題にとっての最終年度にあたる。ここまでの成果をまとめる意味も込めて、「国民楽器」 ツィンバロンをめぐる動きを文化ナショナリズムの全般的な動向と関連づけることにより大きなエネルギーを割きたい。とりわけ「国民楽器」の問題圏と民族誌研究のそれとの関連性を確認するために、ツィンバロンの初期の受容と民族誌研究との関わりについて調べておきたい。
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