本年度は博士論文の内容の一部について補足し、研究の新たな段階へと進むための整理を行った。 4月には民族藝術学会大会にて口頭発表を行い、ブルゴー=デュクドレによる、主にブルターニュを中心としたフランス地万の民謡収集の動きが、いかに全国の「フランスの歌」収集の動きへと結びついていったかを辿った。本内容は論文として、『民族藝術』第26号に掲載されている。この「民謡から国の歌へ」という動きは、世界中で見られる現象であり、日本も例外ではない。旋法的音楽の代表とみなされる民謡を用いた、旋法性概念の伝播の過程を辿る上で、重要なケーススタディとなるであろう。 また10月には日本音楽学会全国大会にて、「19世紀旋法再考」と題する発表を行った。これにより、19世紀ヨーロッパにおける「旋法」の理論的・概念的背景について整理をすることができた。 2月から3月にかけて、パリへ資料調査に赴いた。ブルゴー=デュクドレが万博の委員会に宛てた手紙等を参照し、貴重な情報を得ることができた。これらの成果は、2010年5月16日に慶応大学にて行われた「国際若手音楽研究者フォーラム」での発表に盛り込んだ。「Mode as National Identity」と題する本発表は、19世紀フランスにおける旋法性概念の表れと広がりを、普仏戦争後のナショナル・アイデンティティ確立への動きと結びつけて論じるものである。これをもって、主に「モダリテ(旋法性)」と19世紀仏社会との関係を辿った博士論文に区切りをつけて、新たな段階-他国(ドイツ・アジア)との比較研究-へと進めたい。その第一歩となるのが、2010年9月に予定されている日本音楽学会関東支部例会での発表である。日本音楽研究者と協同のグループ発表を予定しており、フランスを中心とした「旋法」の事例が、日本近代の「旋法」整備の動きとどのように絡み合っているのかを解き明かしたい。
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