本研究は、フランス第四共和政期(1946-1958年)の芸術音楽活動を国家による音楽政策との関連から検証し、かつ「被占領からの解放」という政治的・社会的観点から考察することを目的とする。 本年度は、フランス国営ラジオ局 (RDF/RTF)の芸術音楽番組の方針とその傾向の変化についてまとめ、第四共和政期の音楽政策の考察を行った。その結果、12年間に及ぶ第四共和政期を通じて、①「高水準の」芸術音楽番組による国民教育および国家の威信の表明、②現代音楽及びフランス音楽の促進、が、明確な方針であり続けたことが判明した。「自国文化の保護」を使命としたナショナル・チャンネルに対しては視聴率の低迷にかかわらず、相対的に多額の国家予算が計上された。この方針は、戦前の国営ラジオ局の方針ではなく、占領下(ヴィシー政権下)国営ラジオ局の方針の継承であることが指摘できる。 また、音楽分野の「解放の記憶」について、毎週ナショナル・チャンネルで放送されるフランス国立管弦楽団Orchestre national de Franceの上演記録と関連資料をもとに考察した。まず全般的傾向として①1947年頃までは自国作曲家の保護・促進傾向が強いが排外主義的傾向はないこと、②1954年頃までには戦前のカノン (19世紀ドイツ・ロマン主義) への復帰、他国 (西洋圏) の音楽の尊重の優勢、が判明した。その上で戦争関連の標題をもつフランス人作品の初演に着目した結果、③初演は1947年までに集中し、それ以降は見受けられないこと、④当時の音楽批評ではほとんど触れられていないか好評価を得ていない、その一方で、⑤政治的に中立的な音楽内容をもつアメリカ亡命作曲家の作品が、音楽批評では解放記念の象徴として高く評価されたこと、が判明した。これは、集団的記憶形成のあり方の一例として注目できると考える。
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