研究課題/領域番号 |
21720051
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
沖本 幸子 青山学院大学, 総合文化政策学部, 准教授 (00508278)
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キーワード | 翁 / 乱拍子 / 千歳 / 猿楽 / 能 |
研究概要 |
本年度の研究の最大の達成は、「乱拍子変奏-千歳の成立をめぐって」(『中世の芸能と文芸』竹林舎)の論文によって、能の「翁」の露払い芸、千歳の成立への、乱拍子芸の影響を具体的に明らかにした点にある。(ただし、出版側の都合で刊行が本年度内にまにあわず、2012年5月にずれこんだ) 「翁」の成立をめぐっては、翁の神としての性格を重視するあまり、宗教思想や呪術、儀礼の影響から考察した例が多く、芸態面に注目し、当時の流行芸能の影響という観点から具体的に考察した研究はなかった。また、「翁」には、翁(白色尉)以外にもいくつかの役柄が登場するが、翁にばかり焦点が当てられ、他の役の成立を別に考えようとする研究も殆どないのが現状である。 そうした中で、本論文では、「翁」の露払いである千歳の芸能に注目し、その詞章の変遷、特に囃子詞の変遷を文献学的にたどり、また、「翁」の古態を残すと言われる兵庫県の上鴨川住吉神社の翁舞の「いど」や、山形県の黒川能の「大地踏」という露払い芸の芸態を対照させることで、12世紀から13世紀にかけて一世を風靡した、乱拍子という芸能の影響を明らかにしたのである。 本研究で「翁」成立時における流行芸能の影響の一端を明らかにしたことで、「翁」を初め、猿楽能が成立してきた磁場について考え直す道が開けたといえよう。また、「翁」の三番叟への影響についても引き続き考察を進めており、長年重要なテーマとされながら未だ明らかになっていない「翁」の成立について、芸態面から解明すべく研究を進めている。 また、「翁」の古態を残すと言われる猿楽・田楽のフィールドワークを続ける中で、そうした土地に、中世に流行した風流踊りの流れをくむ盆踊りが数多く残されていることがわかってきた。猿楽・田楽の伝播とそのコスモロジーを考える上でも、風流踊りを視野に入れた研究を進める必要があるという展望が開けた点も一つの成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の到達目標であった、乱拍子芸の能「翁」の成立への影響の一端を明らかにできたことが、一つの達成である。さらに、中世の熱狂的な身体について考えるという大きなテーマの中で、新たな研究テーマとして、民衆の中に生き続け、盆踊りなどの形で広く展開した風流踊りが浮上してきたことが大きな理由である。
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今後の研究の推進方策 |
能の成立を切り口に、その背景にある中世の熱狂的な身体について考えるというのが本研究の大きなテーマであり、それについては、能「翁」への乱拍子の影響という観点から着々と研究が進みつつある。そこで、さらなる展開を目標に、能のように、プロの芸能として昇華、吸収された芸能のではなく、民衆の中に生き続けていた熱狂的な身体について、風流踊りを新たに視野に入れながら研究を進める所存である。
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