研究概要 |
平成21年度には、研究実施計画の通り、ゴダールの『映画史』以降の作品の分析を随時進めながら、旧作の再読、および歴史と記憶のテーマをめぐる他の映像作家による作品との比較考察に着手した。その作業の成果の一つとして、綿密な『映画史』論やクロード・ランズマンの『ショアー』と表象不可能性をめぐる論考を含むジャック・ランシエールの書籍Le Destin des images(Paris : La Fabrique, 2003)の邦訳を刊行することができた(平凡社、2010年3月刊行)。本書全体の射程は本研究のスコープをはるかに超えるものだが、ランシエールの発想の根底にある表象的体制と美学的体制の区別という考え方は、ゴダールやランズマンらの作品における歴史や記憶の取り扱い方をより広範なコンテクストから見定めるためにも大変有益であると言える。 他の成果としては、旧作の再読作業の一環として、ロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』(1953)以降のフランス映画における文学と映画の関係性をアンドレ・バザンの「不純な映画」という発想を軸に再考したほか(「映画的不純性に向けて―ヌーヴェル・ヴァーグと「脚色」の問題」)、映画と写真の取り結ぶ関係性というより広範な観点から、ゴダールだけでなく、エリック・ロンドピエールやジョン・ステザカーの写真作品や、セルジュ・ダネーの「画面停止」論の分析を行い(「映画にとって写真とは何か」)、さらにコンピュータによる諸メディアの収斂という1990年代以降の視聴覚メディア環境を批判的に考察するための発表「間メディウム性の系譜学」を行った。
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