研究実施計画に基づき、昨年度より引き続いて、国内外における作品所蔵調査および関連資料の収集を行い、本研究課題に関連する作品の所蔵状況の把握を進めた。調査・閲覧を行った主な機関は、国内では国立西洋美術館研究資料センター、国立新美術館アートライブラリ、東京大学教養学部図書館書庫、武蔵野美術大学図書館ほか、国外ではフィレンツェ・ドイツ政府美術史研究所、ミラノ・形而上絵画アーカイブほかである。本年度後半には、これまでの先行研究に関する調査を踏まえて、分析の枠組みの構築を行い、今年度中に発表した論文(「ジョルジョ・デ・キリコとシュルレアリスム:内的世界の透視図法」)に反映させるとともに、形而上絵画(Pittura Metafisica)に関する学位論文の構成を再検討した。 研究代表者は、平成22年7月に、フィレンツェ、ローマ、ミラノにおいて、本研究課題と関連する展覧会の見学と文献収集を行った。同出張中に、『シュルレアリスム展--パリ、ポンピドゥ・センター所蔵作品による--』展の出品作品のうち1点の油彩作品に関する真贋調査を行い、結果として出品作品を変更することとなったが、この調査を通して得た発見は、単なる真贋調査を越えて、今後の調査研究に拡がりを与えるものでもあった。同展図録には、前掲論文および作品解説を執筆した。同展覧会HP上の子供向けガイド等と併せて、展覧会事業全体を通じて、最新の研究動向を踏まえたシュルレアリスムをめぐる調査研究ならびに20世紀のヨーロッパ絵画における古典回帰、神話的主題の現代性という問題をめぐる考察を広く発信できたことは、重要な意義を持つものと考える。平成22年度は、国立新美術館における二つの大規模な展覧会事業に携わるなかで、各展覧会の監修者(オルセー美術館館長ギ・コジュヴァル氏、ポンピドゥ・センター副館長ディディエ・オッタンジェ氏)、作品調査に協力いただいたミラノ・形而上絵画アーカイブのパオロ・バルダッチ氏らをはじめとして、イタリア20世紀絵画に造詣の深い海外の研究者から有義な教示を得ることができた。一方で、本年度に計画されていたものの、職務の都合上見送らざるを得なかったアーカイブ調査および学会発表は、平成23年度以降の計画を調整した上で遂行する。
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