大正期の「家庭」イデオロギー的なものからの逸脱が主人公と主人公と関係する女性達にどのような意味を持っているのかを考察した。家庭イデオロギーを支える女性規範について、『婦人公論』など20世紀前半の日本の婦人問題を幅広く捉えようとした雑誌の調査を行った。 まず『白樺』についての調査研究と、また家庭の逸脱者というテーマについての調査研究を行い、彼らの作品に現れた逸脱の様相について考察した。志賀直哉や里見〓といったブルジョワ作家の作品において、主人公の逸脱の舞台は「家庭」である。 また当時の「女中」をめぐる婦人雑誌などの言説について調査した。とくに『婦人公論』で主婦の家庭運営における女中の扱いについて繰り返し特集されている点に注目した。それをふまえて、小説の「女中」と婦人雑誌の言説との差異と相同性を検証した。 上記の研究については、以下の形で公表した。 「女中という装置-志賀直哉・里見〓・佐藤春夫」『国文学論考』46号、2010年3月 このような逸脱が性的な問題における逸脱であるということをふまえ、性についての言説研究を行う研究会に参加し、討議・報告を行った。その上で雑誌『白樺』を調査し、男性作家によって描かれた男性主人公の抱える問題と家庭イデオロギーがどのように関係していたかについて考察し上記論文としてまとめた。「家庭」イデオロギーの中で家族と他人の中間的な存在であった「女中」の表象が「家」制度との関連ではどのように変容するのかを具体的な作品に即して考察したものである。
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