2009年度は、「研究の構築・展開期」と位置付け、主に日中戦争期の《文学》領域にかかわっていた者たちが、自分たちの存立を支える場をいかに維持・保全しようとしていたかについて検討すべく、以下の活動を行った。なお、2009年度には海外への調査出張を予定していたが、人的なネットワークを含めた研究基盤の構築を優先させる方向で、研究計画の組み直しを行った。 (1)1930年代半ばのヨーロッパでくり広げられた反ファシズム運動の、日本への紹介と移入について、同時代の言説資料の調査・検討を行い、当時の文学者たちが、「天皇機関説問題」に象徴される言論にとっての政治的な危機という問題と、「純文学」の生存の危機として表象された文学言説にとっての社会的な危機という問題のはざまで思索を展開していたことを明らかにした。また、関連して、主に自由主義の立場から文学者・文化人の広汎な連携を目ざした中島健蔵の仕事に注目、関係資料の収集と書誌調査にあたった。 (2)1930年代後半に、日本語による対抗的な言論の担い手として注目されていた出版社・改造社について、言説の生産・流通・散種に関与するエージェントとしての役割に焦点化した検討を行った。具体的には、以前に研究分担者として参加した科学研究費補助金による研究活動の継続として、慶應義塾図書館が所蔵する改造社資料のデジタル・アーカイヴ化プロジェクトに参加、主に出版流通にかかわる資料の分析と解説を担当した。
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