2011年度は、本研究課題の「完成期」と位置付け、以下(1)~(3)の活動を行った。 (1)前年度に引きつづき、戦時体制期の日本語出版物の生産・流通について、「紙」の支配という観点から分析と検討を行った。1940年に創設された日本出版文化協会が担当した用紙統制と出版企画審査とを結びつける統治のあり方をめぐって、10月の国際ワークショップ「1930/60、制度・資本・移動」で「言説の生=政治:戦時下日本の言論統制をめぐって」と題した研究発表を、12月の第65回20世紀メディア研究会では「紙の支配と紙による支配《出版新体制》への一視点」と題した研究成果の報告を行った。 (2)戦時下における日本語文学の問題を考える前史として、1930年代初頭の文学言説の場と問題構成について検討した。とくに、谷崎潤一郎『春琴抄』の受容に着日、横光利一をはじめとする1930年代前半の若手作家たちが、『春琴抄』に示した複雑な反応を読み解くことから、この時期の書き手に特徴的な文学観・小説観について、論文「漸近と交錯--「春琴抄後語」をめぐる言説配置」にまとめた。 (3)戦時体制期の文学者・文化人の動向を検討するため、大政翼賛会文化部・宣伝部にかかわる資料、日中戦争期の戦記テクスト・戦記映画にかかわる資料の収集を行った。とくに、前者については、敗戦後の桂会運動を下支えする重要なファクターという観点から、検討・検証を行った。 この他、本研究課題の問題意識をさらに深化させ、薪たな展開へと接続していくために、他の研究プロジェクトや科研費課題との連携や、研究会の共催などを試みた。こうした経験から培った研究上のネットワークを、今後の研究活動に積極的に活用していきたい.
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