本年度は前年度に引き続き、敵討ち物実録の調査を継続して行なった。それにより、これまで存在が知られていなかったり内容の不明であったりした敵討ち物実録が新たに発見され、書誌的事項や梗概、内容的特徴をパソコン入力することで、解題作成のためのデータをより充実させることができ、実録研究を一歩前進させることができた。将来的には、他ジャンル文芸の研究者にも冊子、あるいはデータベースの形で解題を公開し、それぞれの研究者の専門とするジャンルと実録との関連が把握できるようにし、近世文学研究における実録の重要性を広く認識させるつもりである。 また、これまでのデータの蓄積に基づき、十七世紀における実録のあり方や実録の十七世紀の描き方について検討し、近世文化における実録のかかわり方を考えていく手がかりとした。この他、調査済みの敵討ち物実録のうち、「お春の敵討ち」と呼ばれる事件を扱った実録に注目し、重点的に諸本の比較検討や内容の吟味を行ない、この敵討ちが「実録」として流布していたにもかかわらず、実際に起きた事件ではない可能性が強いことを明らかにし、いかにして真実味を出したかということについて言及した。この敵討ち物実録の一本である『鎌倉道婦女敵討』の翻刻も行なっている。 さらに、本年度は敵討ち物実録と他ジャンル文芸との交流についても研究を進め、「お春の敵討ち」を扱った実録が、浄瑠璃や草双紙の素材として取り入れられていることを具体的に解明し、近世文学における実録の重要性を裏付ける一助とした。
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