本年度は、前年度に引き続き研究遂行に必要な文献の調査とデータ化を行った。 1 本文の形態に関する本文分別の基準の分析 鎌倉~室町時代成立の『源氏物語』注釈書(紫明抄~眠江入楚)における異文注記の摘出を行い、その一部(桐壺巻~幻巻)をデータ化した。これらの作業を通して、(1)異文注記の数は、実際の本文異同の数とは無関係に、巻が進むごとに減少傾向にあること、(2)本来であれば指摘されるべき異同であっても、無視されている場合があること等々の現象が確認された。 今年度までに基本的なデータの作成は終了した。以後未調査の注釈書のデータの追加を行いつつ、順次公開していく予定である。 2 神宮文庫蔵『源氏肝要』の調査 神宮文庫蔵『源氏肝要』に関して、内閣文庫本蔵の同書との差異に着目しつつ、源氏物語、並びに本書の享受のあり方について調査した。この調査を通して、(1)『源氏肝要』が、源氏物語本体ではなく、古注釈書等の二次資料をもとに記述されていること、(2)『源氏肝要』には、本書の成立の問題だけでなく、『源氏小鏡』といった他の注釈書の成立の問題をも解決しうる記述が存在することを明らかにした。
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