当初の研究計画はアイルランドの現代詩および現代劇における古典文学の影響を究明することであった。アイルランドの詩人や劇作家はこれまでかなりの分量の古典文学素材を翻訳あるいは翻案しており、かならずやこの研究は実りあるものとなり、現代アイルランドの文学作品のみならず古典文学の理解の幅も広げるものと思われた。この研究は現在盛んに行われている受容研究の一端を担うものであり、当該の作家と歴史を関連付ける際にこれまで支配的だったポストモダニズム、ポストコロニアリズム、ポスト構造主義の解釈に取って代わる視点をもたらそうとするものであった。この研究成果は3点あり、ひとつは国際会議で数多く口頭発表したこと、さらに査読付き学術誌に論文が掲載されたこと、くわえて研究書を出版できたことである。 研究1年目にイングランド、北アイルランド、日本各地の大学を訪問して調査したところ、計画に盛り込まれていた現代劇部門については他の研究者によってすでに研究し尽くされていることが判明したため、研究の目的と範囲を変更した。すなわち、アイルランドとイギリスの現代詩は互いに影響を及ぼして活性化しているところがあるので、両者における古典文学の影響に焦点を当てるのがより生産的なものになると思われた。 研究2年目と3年目にはフィンランド、スウェーデン、日本、ニュージーランド、連合王国、アメリカ合衆国で開催された国際会議で口頭発表を行ったほか、第一級の査読付き学術誌に当該テーマに関する論文を発表した。本研究の主たる目的は研究書の出版にあったが、2010年2月に『イギリス・アイルランドの現代詩における牧歌的エレジー』の出版契約が整った。本書は最近の詩においても古典文学の素材が根強く人気を博していることを考察したものである。2011年9月に脱稿し、イギリスでは2012年3月に出版され、アメリカでは2012年の5月に出版予定である。
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