2009年度は、全体にわたり、先行研究の整理と批判的再検討を中心に進め、今後の研究のための基盤を固めると同時に、従来の研究の問題点・盲点を明らかにし、本研究の独自性と方向性を明確にすることに努めた。また、大戦当時から現代の代表的戦争作品(小説、詩、映画、テレビ番組)を分析することで、各作品の特徴の整理と作品同士の関係のマッピングを行った。特に、D.H.ロレンスを中心とする大戦当時の作品、テッド・ヒューズをはじめとする戦後世代の作品、パット・パーカーを中心とする現代作品という3つの大枠を設定し、それぞれの時代における文学的特徴をある程度明らかにした。 9月に、イギリスとベルギーで現地調査を行い、第一次大戦の記憶と現在の関係に関する一時資料を入手したり、式典を見学したりした。入手した資料や映像記録は、今後の研究にとって貴重な材料となるはずである。 さらに、2010年6月に開催予定の日本ロレンス協会大会において、シンポジウム「ロレンスと第一次大戦-文学、歴史、記憶、神話」を実施することを決定し、そのための企画作り・講師募集などの準備作業を行った。私は、司会・講師を担当し、「第一次大戦の<記憶>と今、そしてロレンス」という題目で発表予定であ。2010年3月には、シンポジウムの講師4名で、大阪市大学にて勉強会を開催し、情報交換を行った。このシンポジウムによって、大戦の記憶・神話研究の今日的重要性と可能性を主張することができるだろう。
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