本年度の研究成果は、本年度研究分を基に一論文を完成・出版させた事、またその論文内容をアメリカ合衆国で学会発表できた事が最大の成果であった。当初計画では、本年度はメリーランド大学図書館にて資料収集の予定であったが、その後の調査により、国立国会図書館(東京)の所蔵資料で充分足り得る可能性を見出した為、国内に留まり資料収集に当たった。結果として、当初計画で平成23年に行う予定であったアメリカでの学会発表と雑誌への投稿・出版を2年早めて行うことができた。まだ本研究の目指す最終的研究段階には至らないが、途中経過で大きな学問的意義を見出す事が出来た事は大きな成果であった。 この学問的意義とは具体的に、本研究課題である、戦後占領下日本におけるGHQ日本民主化政策とアメリカ文学の関係性の重要な一構成要素を発見した点である。すなわち、GHQ占領政策という政治行為とは一件無関係に思える、西部開拓時代の「西部」思想が不可分に結びついていた事の発見である。この発見により、GHQが占領下日本に教化しようとしていた「理想的アメリカ民主主義国家像」の特徴の一端が前景化された。この発見は、1世紀半も前の時代の歴史的概念が、時間と国家の境界を越えて、異文化日本で再生・再構築されたというトランス・ナショナルな歴史解釈をアメリカ史、占領史に与えた重要性を持つ。 同時に、GHQ選抜図書を通して日本に導入された西部思想が、日本人の文化的視野により、日本文化的解釈を付与され、いわば日本に「土着化」された事実も判明した。これにより、アメリカは敗戦国日本にとって単なる羨望と憧憬の対象ではなく、「共感」し得るより身近な存在となった事が分かった。この事は、日本人の民主化過程における主体性の存在を証明し、戦後民主化政策がGHQ/アメリカ主体と見られてきたこれまでの歴史解釈に修正を迫る重要性を持つ。
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