本研究の目的は、現代英国における多文化主義の可能性と限界について現代メディアを中心に探求するものである。第二次大戦後に流入した膨大な旧植民地からの移民、加速するグローバル化のなかで高まる「グローバル・マイグレーション」の流れ。こうしたなか、英国は多文化主義を掲げながら、それがうまく機能しているとは言い難く、つねに多くの課題を抱え込んだままだ。本研究は、こうした現状をふまえたうえで、メディアのナショナルかつグローバルな動向が現実の「多文化」な状況においていかなる効果をもたらしているのか、また人種、民族、宗教的な他者は、英国的な多文化主義の論理のなかでどのように構成されているのかを探っていくものである。 本研究の初年度であった21年度は、テレビ、ラジオおよび情報外交に関する資料収集、従来の議論の整理につとめた。また8月に渡英し、ロンドンにてメディア制作と移民政策に関する資料収集および聞き取り調査を行った。そこで浮き彫りになったのは、内なる敵が<ブラック>から<ムスリム>へ変わり、新自由主義のなかで包摂から排除へと転換する社会の構造である。多文化主義をめぐる議論は、むしろ論争に火種をつけないように巧みに回避されており、その一方で、選択的に高度技能移民を取り入れることで国民を再編していこうといった動きに移行しつつある。 22年度はその成果をまとめるとともに、現代英国におけるリベラリズムと多文化主義のあり方について調査を進めていきたい。とくにメディアとデモクラシーのありようを解読し、現在問い直されている英国におけるリベラル・デモクラシーの陥穽を探っていきたい。
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