本研究の目的は、現代英国における多文化主義の可能性と限界についてメディア文化を中心に探究するものである。戦後、旧植民地からやってきた移民と、1980年代以降高まる「グローバル・マイグレーション」の流れのなかで、英国は、一方で移民法の改正を繰り返して流入を制限し、他方で、文学、アート、音楽に見るように、確実にコスモポリタンな社会へとその質を転換させてきた。しかしながら、ラシュディ事件、スティーヴン・ローレンス事件、地下鉄爆破事件など、いくつもの画期的な出来事が起き、依然として社会的緊張が高まっているのも事実である。こうしたなか、2011年2月にはキャメロン首相が、英国の多文化主義は失敗だったと宣言した。 本研究の2年目にあたる22年度は、こうした戦後の英国の多文化主義の流れを踏まえた上で、第一に、英国の多文化主義とムスリムについて考えるうえで鍵を握っているリベラリズムについて理論的な文献を整理しながら、過去に起きた社会的事件とそれをめぐるメディアの構造を分析した。第二に、ムスリムとは異なり、英国に限らず、昨今、環大西洋的な文化活動のうねりのなかで再考されているブラック・カルチャーについて米国との類似性と差異を比較しながら考察した。 本研究の最終年度にあたる23年度は、これまで収集した資料、文献の分析を進めるとともに、それらの分析をインタビューで得た貴重な意見とともに再考し、論文、発表するとともに、単著としてまとめたい。
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