本研究の目的は、現代英国における多文化主義の可能性と限界について現代のメディア文化を中心に探求するものである。第二次世界大戦後、不足した労働力を旧植民地から補給したが、ひとたび不況に陥ると移民は真っ先に解雇され、路頭に迷うことになる。さらに1980年代以後、グローバリゼーションの流れとともに、新自由主義とリベラリズムが浸潤した社会のなかでロンドンの労働者事情、移民問題は大きな転回を迎えていく。2011年2月にはキャメロン首相が英国の多文化主義の失敗宣言を行い、さらに2011年夏には2000人以上が逮捕される、ここ数十年で最悪の英国暴動が起きた。本研突では、こうした政治経済的、社会的な背景を踏まえながら、現代英国の多文化主義がどのように構成されていったのか、その可能性と陥穽について資料の解読とメディア制作者へのインタビュー調査をもとに探っていった。 初年度である21年度はテレビ、ラジオ、映画をはじめとするメディア文化に関する資料収集と先行研究の議論を整理し、2年目の22年度は包摂から排除へ向かう新自由主義社会における、多文化主義とリベラリズムの共犯性について考察した。 最終年度である23年度は、暴力に焦点を絞って考察した。暴動、略奪が相次ぎ、貧困、失業が高まるなかで、政治的、社会的に生じたもつれは、解きほぐされることなく断絶され、ひとたび社会の不安と恐怖の対象と化した他者は、対話不能な相手として認識されるようになっている。本研究では、このように截然と社会から切り離し、視界の外に追いやる、廃棄可能な他者の生産がどのような構造によって生じているのかを明らかにすべく、これまで2年間の成果をふまえつつ調査をすすめていった。2011年夏にロンドンで起きた英国暴動の現揚を訪れ、現地の研究者、ジャーナリスト、政策関係者にインタビューを行った。本研究の成果は今年夏に単行本として出版される予定である。
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