今年度の研究においては、イーディス・ウォートンとメアリ・ウィルキンス・フリーマンのヴァンパイア物語をニューイングランドの歴史に注目して分析した。表象されるモンスターの正体はヴァンパイアとしか呼べないにも関わらず、彼女たちの作品では「魔女」という言葉が頻出し、1692年のセイラム・ヴィレッジにおける魔女狩りの歴史を思い起こさせる言葉として20世紀になってもニューイングランドの地において特有の力を持ち続けていることを伺わせる。ヴァンパイアというモンスターが閉鎖されたニューイングランドの村でどのような意味を持つのか-ヴァンパイアというモンスターが存在すると信じることとそう語ること、そしてヴァンパイアという存在そのものが持つ意味を女性と共同体という観点から考察するのがこの研究の目的であるが、今年度の研究においては「魔女」と言う言葉が共同体の力学を操作するおまじないの言葉として、人々を操作し、攪拌し、語り手、または「魔女」の存在を主張する者によって使われ、共同体を自分の思う形へと再形成する意図を示していたと結論づけた。この「魔女」という言葉が共同体において望まれない女性を指す言葉として使われているとするならば、なぜその正体がヴァンパイア-他者の精力を奪う寄生怪物-であるのかを解読することが2010年度の課題である。
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