研究概要 |
本年度の研究を通して以下のような知見および成果を得ることができた。1.作家・作品研究(1)テレサ・ハッキョン・チャによる映画理論、映像作品、および文学作品に通底する歴史的記憶の媒体としての視覚イメージの位置の特定。カリフォルニア大学バークレー校でのアーカイブ調査の成果も活かし、チャがフランスにて学んだ記号学的・精神分析的映画理論に対して次第に内在的距離を取り、言語的意味作用に還元されえない映像イメージの特質を発見するに至ったことを分析した。(2)チャールズ・オルソンの1940年代から50年代にかけての詩論および詩作品における環太平洋地域の意義についての調査・研究。近年再び盛んになりつつあるオルソン研究の成果を参考にしながらも、未だに充分に焦点が与えられているとは言えない初期の代表的詩論および詩作品を分析し、それらに頻出する「太平洋」の形象が、詩人にとっては第二次大戦後の世界の破壊と新たな生成変化への可能性の双方を表現することを可能とする特権的場であったことを読解した。2.本課題の理論的視座の構築(1)記憶の美的・芸術的媒介の問題(W.ベンヤミン、T.アドルノ、JL.ナンシーなど)について考察し、記憶の物質的媒介と、社会性・共同性に関するこれらの理論とトランスナショナルなアメリカ文学および映画研究との理論的接合点を検討した(2)トランスナショナリズム理論の再検討。現在アメリカの人文社会研究においても主流となっているトランスナショナリズム的方法論の基盤をなす「空間的移動」の前景化が、その移動において越えられるべき場所の同一性に対して充分に批判的でないことを考察した。これらの調査・研究によって得られた成果の一部を芸術理論雑誌Art, Critique, Theory(韓国)に掲載し、アメリカ映画メディア学会(Society of Cinema and Media Studies)などにて学会発表を行った。
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