研究概要 |
本研究では近年進展の著しいトランスナショナルなアメリカ文学研究に美学理論(感性論)の視座を導入することで、歴史的記憶が感性的に分有されることで、既存の主体性の枠組みに抗うようにして、過去の暴力や出来事を想起する関係性を構成しうる可能性についての考察を行った。 平成23年度においてはUniversity of Southern California(南カリフォルニア大学)に提出した論文”Senses of History: Colonial Memories, Works of Art, and Heterogeneous Community in America’s Asia-Pacific since 1945”にその成果の大部分を収録した。アドルノ、ナンシーなどの理論にも依拠した本論文では、テレサ・ハッキョン・チャ、トリン・T・ミンハ、チャールズ・オルソンといった作家たちの作品の実験的ともいえるフォームに着目することで、作品が既存の言説の表象にとどまらない位相において、過去の記憶を主体化=従属化の機制に抵抗を促す「問い」として作家自身や読み手たちに提示していることを論じた。同時に、これらの作家たちが詩、エッセイ、映画・映像など複数の芸術の領域に関わりながら活動をしたことの必然性を問うことから、歴史的記憶の分有が、すくなくとも視覚と聴覚の間で分かちもたれるかたちで起こりうることを考察した。また、同様の問いをめぐって、広島を思考する映画表現と1960年代沖縄における絵画表現についての論考も発表した。
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