発禁処分となったKate O'BrienとEdna O'Brienの初版本は英米においては比較的入手しやすいものの、リバイバル版の流通によりその数は急速に減っている。特に表紙カバーのあるものの数が極端に少ないため、1)研究対象に挿絵を含めること、2)英米に限らず収集の範囲を広げること等の研究手法についての検討を始められたことが意義深い。 男性像の表象において、これまで女性の表象に特徴的であった国家のシンボルかつモラルの担い手という存在に対して、兵士であった男性はアイルランド独立後の長い景気低迷において徐々にその存在を弱めていることが作品から伺われる。国家によるステレオタイプへの抵抗を強める女性作家に共通するのは家父長制を頑強に主張するものの時代に取り残される「独りよがりな」父親、経済の担い手になり損ね、家族の女性(母親や姉妹)に依存して生きる「女性のように繊細な」息子、酒や賭博におぼれ、妻を稼ぎ手にする夫などいずれも国家の理想とする「男らしい」姿からは逸脱している。 また男性像の描写は往々にして背景化され、代わりに存在感を示すのは力強く運命に抗して生きる「母親」や「妻」そして「女」である。男性の存在は母親や妻の陰に見え隠れする不在の「父親」や「夫」であり、物語の中心を占めるのは女の人生である。さらに背景化された男性が当該女性に与える影響は時に圧倒的な力(家父長制、カトリックの教義)を持つが、その強大さを男性の表象の希薄化と比較した時、作家の意図は鮮明となる。 女性の表象が多義化する中で男性の表象が矮小化・希薄化される過程を検討することは、女性の表象のみに焦点を当てることに比べて意義深い。今後は女性像との比較検討を試みることが必要であると考えられる。
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