本年度は3年に渡る研究計画の2年目にあたり、基礎的・理論的研究の充実を踏まえて、本研究の主な焦点である20世紀前半のモダニズムの関連作家における情動・感情の主題について考察を深めた。その結果は、出版物1つ、口頭発表3つ(うち国際学会1回)の成果にまとめた。まず「気持ち/感情」と題した短い論文では、近年の情動論的展開の概略をまとめ、そのめざすところが、レイモンド・ウィリアムズのいう「感情の構造」、すなわち私的でも公的でもある新たな情動の領域の探求にあることを示唆した。6月にはそのウィリアムズも重視したモダニズム作家D・H・ロレンスについて口頭発表し、ロレンスの詩学における情動の「没個性的」側面に着目した。また、12月には20世紀前半のモダニズム作家の先駆けでもあるオスカー・ワイルドの批評について口頭発表を行い、ワイルドの特殊な情動観が当時の社会への批評であると同時に、ユートピア的衝動の発露ともなっていることを確認した。また、同じ12月にスコットランドのグラスゴーで行われたモダニズムに関する3日間にわたる国際学会では、このような「公的」でもあり、「没個性的」でもある情動の具体的発露の手段としての前衛芸術的マニフェスト形式、ならびにモダニスト的実験の関わりを考察して報告し、専門家との意見交換を行った。これらの研究は、複数の作家・芸術家間の相互作用を重視する本研究課題のアプローチに完全にかなったものであり、口頭発表については次年度以降、活字化を検討したい。
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