平成21年度は19世紀の歴史小説を題材にして、ロシア・ウクライナにおける歴史認識を研究することを目的とした。その際にコサックとサハリンという二つの要素に着目した。 前近代に誕生したコサック集団の自己意識は、近現代のロシアやウクライナと必ずしも結びついていたわけではない。しかし近代以降の文学作品(歴史小説)の中で盛んに描写されることにより、ウクライナ人とロシア人の歴史的アイデンティティの核のひとつとなった。今年度はその中でもドン・コサックの英雄ステンカ・ラージンの形象の変遷について研究した。とりわけロシア民謡で知られるラージンの性格付けが外国人の記述に基づくものであり、199世紀に入るまでロシアでは知られていなかった点に着目した。この研究の成果は平成22年3月にソウルで開催された国際学会で報告した。 サハリンは本研究が対象とする地域からは遠く離れているが、ウクライナやベラルーシからの多くの移民が19世紀から今に至るまで人口の少なくない部分を占めている。19世紀末から20世紀初めにかけて書かれた文学作品を題材にして、複雑な民族的要素を含むこの地域の歴史的イメージを研究し、平成22年2月に行われた研究会で報告した。この成果は平成22年度に論文として刊行予定である。 平成21年度の研究で扱えたのは専らロシア語の歴史小説になってしまった。ウクライナの小説をもっと研究対象とする予定であったが、それは不完全な形でしか実行できなかった。来年度はその点を改善したい。
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