ロシア・ウクライナ・ベラルーシにおける歴史小説ジャンルを題材として歴史的な記憶の問題を比較分析することが本科研プロジェクトの目的である。2010年度は1960年代以降のブレジネフ期ソ連における歴史小説ブームを中心に研究を進める計画だった。 本年度は主に二つの研究を行った。第一に、2009年度に引き続きサハリンという場所に着目し、文学作品に描かれたサハリン表象が、1930年代の旅行記ジャンルから1960年代に歴史小説に引き継がれていく経緯を明らかにした。その成果として論文「20世紀ロシア文学におけるサハリン島-チェーホフと流刑制度の記憶」が執筆済みであり、2011年度中に論文集『日露戦争とサハリン』(北海道大学出版会)の一章として出版されることが決まっている。 第二に、ベラルーシの文学においてチェルノブイリ事故がどのように描かれてきたかを研究し、特に第二次世界大戦の記憶と複雑に重なり合っている点を明らかにした。その成果として2010年7月にストックホルムで開催された国際中東欧学会で「現代ベラルーシ文学におけるチェルノブイリ事故」という題の発表を行った。このテーマはソ連時代ではなく主に現代を扱っているため、どちらかというと2011年度の研究計画に続くものだといえる。ストックホルムの学会発表の後、森林火災の影響で煙に包まれたモスクワで資料収集を行った。日本ではなかなか入手できない1930年代の文献を閲覧・入手することができた。 ウクライナの歴史小説研究が計画通り進展していないことが反省点として挙げられる。2011年度の課題としたい。
|