8月に北京で開催された国際会議で、ロシアの歴史小説について博士論文を書いたミラノ大学のレベッキーニ氏を招聘し、千葉大学の鳥山祐介氏の協力も得て、ナポレオン戦争とロシア文学に関する共同のパネル発表を行った。北の大国というロシアのイメージの成立がナポレオン戦争の勝利と結びついている点を文学作品やカリカチュアを題材にして分析した。また敵を雪の中に迷い込ます17世紀の民衆英雄スサーニンの伝説が、冬将軍に敗れたフランス軍の姿と重ねられたことで、1812年の戦争をきっかけに広く知られるようになる過程を、一本の論文にまとめた。3月にはベラルーシについて二つの研究報告を行った。19世紀のポーランドとロシアの文化的な境界地域でベラルーシ的なアイデンティティを志向する作家が現れる経緯を明らかにした。またチェルノブイリ事故がベラルーシの文化にもたらした影響を、ユートピアとカタストロフィという観点から考察した。2番目の報告は、福島原発事故と日本や東北の文化の今後を考える際にも参考となるものであり、次年度以降の新たな研究テーマに発展させていきたい。 ロシアの極東サハリンの地方文学を題材にして、流刑地やチェーホフ滞在の歴史的記憶が地域のアイデンティティ形成にどのように作用しているかを調べ、論文として発表した。ロシア語使用圏の東の境界を極東地域とするなら、ベラルーシ・ウクライナは西の境界領域と考えることができる。その関連で3月のモスクワ・ペテルブルグ出張では、ロシアの東洋学の歴史を調査して、資料の収集に努めた。今後は現在の研究テーマを東西の境界地域の比較研究につなげていくことをねらい、次年度以降の科学研究費萌芽研究に申請した(採択済)。また、口頭発表のみで論文の形になっていない研究もあるため、その出版も次年度以降の課題としたい。
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