今年度は、18世紀フランスにおける思想と文学の相関関係を幅広く検証するという研究の目的を着実に実践し、研究内容、社会的評価の両面で大きな前進があった。研究内容の面では、(1)前年度に引き続き、モンテスキューの『ペルシア人の手紙』(1721年)における政治思想(専制批判)とフィクションの構造(書簡、寓話)の関係を明らかにする試み、(2)ディドロの『自然の解明に関する断想』(1753年)における科学思想(自然学、物理学、化学)と文学形式(断片、寓話、補遺、夢想)の関係を明らかにする世界初の試み、(3)ヴォルテールの『寛容論』(1763年)における政治思想(寛容論、国家統治)と文学形式(演劇的叙述)の関係を明らかにする世界初の試み、(4)前項の研究に基づき、17世紀から現代までの寛容思想の系譜、およびその系譜におけるヴォルテール独自の立ち位置を明らかにする試み、の4点について、研究の萌芽や進捗があった。具体的な成果としては、(1)との関連で『ペルシア人の手紙』の一部翻訳の発表、(4)との関連で寛容思想の系譜をたどる論文の執筆等を挙げることができる。また(2)と(3)については、来年度中にそれぞれ論文を発表する予定である。一方、社会的評価の面では、2010年6月、本科研費の成果として出版した著書『ディドロ限界の思考』(風間書房、2009年)が第27回渋沢・クローデル賞特別賞を受賞したことにより、新聞、雑誌、講演等を通して、ディドロの思想と文学の相関関係をめぐる自らの研究について広く発信する機会を持つことができた。このことは、「理性中心主義」「合理主義」などの安直な紋切型のもとで一括されてきた18世紀フランスに新たな光を当てるという当初の課題に照らして、これまで進めてきた研究が実質的な成果を挙げたことを意味している。この他、前年度より続けてきた18世紀研究の基本資料の収集に関しても、着実に進めることができた。
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