研究課題/領域番号 |
21720108
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
田口 卓臣 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (60515881)
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キーワード | 仏文学 / 十八世紀 / 思想と文学 / フィクション / ディドロ / モンテスキュー / ヴォルテール / 寛容思想 |
研究概要 |
今年度は、十八世紀フランスにおける思想と文学の相関関係を幅広く検証するという研究の目的に向かって、一定の前進を見た。研究内容の面では、(1)前年度に引き続き、ディドロの『自然の解明に関する断想』(1753年)における科学思想(自然学、物理学、化学)と文学形式(断片、寓話、補遺、夢想)の関係を明らかにする世界で初めての試み、(2)ディドロが編集を担当した『百科全書』における思想と文学の相互作用に関する検証、(3)十八世紀フランスの思想と文学の相関関係を検討するうえで必要と思われる、当時の文化史に関する俯瞰的な研究、(4)ディドロの美学理論と文学的方法の関係に関する検証、の4点について研究の萌芽や進展があった。具体的な成果としては、(1)に関して、来年度、論文を3本程度発表する予定である。(2)に関しては、フランスのディドロ研究誌に、共著の短いフランス語論文が掲載された。(3)に関しては、来年度に刊行予定の『フランス文化事典』(丸善ライブラリー)に寄稿した5項目が校正作業を終了している。(4)に関しては、同じく来年度に刊行予定の『ディドロ著作集』(法政大学出版局)に寄稿した翻訳と解題がもうすぐ校正に入るはずである。そのほかにも、同じディドロ研究者、大橋完太郎氏の大著『ディドロの唯物論』(法政大学出版局)の刊行を機に、「理性中心主義」「合理主義」といった安直な紋切型では捉えきれないディドロの思想と文学の方法について、書評を執筆したり、シンポジウムにパネリストとして参加したりすることで、人文系の研究者間の交流も深めることができた。また、前年度より続けてきた十八世紀研究の基本資料の収集に関しては、とりわけ当時の「科学思想」に関連する文献を集める作業に着手することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、3年目までの間に、ディドロ、ヴォルテール、モンテスキューにおける思想と文学の相関関係について研究を進めるということが目標であった。この目標はおおむね達成されていると言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、ルソー、サド、ラクロなどの諸作品に関する検証も進めることを目指していた。しかし、2011年3月11日の原発震災以降、18世紀の思想と文学の相関関係を歴史的に問うばかりではなく、現代をも照らし出すような問題提起性について考察する試みが必須であるとの確信を抱くにいたった。とりわけ科学技術の可能性と限界を見据えようとしたディドロを初めとする百科全書派の哲学的・文学的な方法は、今だからこそ無視できない画期的な意義を宿しているように思われる。そこで、4年目の研究では、当初の計画を変更し、18世紀フランスにおける科学思想と文学の相関関係に考察の的をしぼることにしたい。具体的には、ディドロの『自然の解明に関する断想』に関する研究成果を発表するところから始める予定である。また、余力があれば、ディドロとビュフォンにおける「自然と文明」の概念についても切り込んでみたい。
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