本研究は、十八世紀フランスの先鋭的な思想家たち(モンテスキュー、ヴォルテール、ルソー、ディドロ)が、神学的世界観の崩壊によって生じた思想的危機を乗り越えるために、さまざまな文学的形式を介してみずからの思想を表現するという画期的な方法を創出したことを跡づけ、再評価することを第一の目標とした。また、この検証作業を通じて、十八世紀フランス文化の特異性を明らかにし、いまだに根強く残るこの時代への思想史的・文学史的偏見を一掃するとともに、「思想史と文学史の総合」という人文科学の普遍的な課題にひとつの道筋を切り開くことを第二の目標とした。 この二つの目標を達成するために、本研究は、十八世紀フランスの思想家たちのフィクション作品における言説編成とその美学的・イデオロギー的効果を検証するという方法を選択した。具体的に言えば、この方法は以下の二つに大別することができる。(1)フィクション作品群におけるメタ言説的・自己解説的な言表の分析を通して、言説編成の仕組みを解明する。(2)前述の言説編成に基づいて組織される修辞技法、詩的想像力、物語の構造、文学ジャンルの設定(演劇、対話、寓話、書簡、風刺、断片、小説)などが、作品の思想内容そのものにどのような仕方で、いかなる変容を迫っているのかを解明する。 以上の方法に基づき、(1)モンテスキューの書簡小説『ペルシア人の手紙』における政治思想(専制批判)と文学的仕掛け(書簡集、翻訳、寓話、風刺)の相関関係、(2)ディドロの小説作品群における思想(人間の理性の限界の認識)と文学的仕掛け(語り、筋、比喩、描写)の相関関係、(3)寛容思想の系譜におけるヴォルテールの位置づけ、とりわけ演劇的な構造を介して寛容思想を語る主著『寛容論』の思想史的位置づけについて、具体的な研究成果を挙げた。ただし、ルソーの研究に関しては多くの課題を残している。
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