本研究は、亡命ロシア人作家アレクセイ・レーミゾフの芸術活動を通して、20世紀前半の亡命ロシア社会について検討するものであり、これまでに看過されてきた画家としての側面も含めた総合的なレーミゾフ像の構築、およびヨーロッパ・モダニズム研究への新しい視点の導入を目的としている。本年度はその初年度として、研究環境の整備と資料収集を精力的に行った。レーミゾフの画業に関する調査・研究の第一歩として、9月にアマースト・カレッジ付属ロシア文化センターおよびハーバード大学付属図書館(米国)が所蔵するレーミゾフの、おもに亡命中期・後期のカリグラフィー、日記、コラージュ作品等のオリジナルを閲覧し、許可されたものについては撮影した。また、マイクロフィルム化されている分については、これを入手した。カリグラフィー、挿絵、コラージュ作品はレーミゾフ研究にとって参照が不可欠であるにもかかわらず、作品の散逸などといった理由から、最も調査の遅滞が顕著な分野でもあり、これを考慮した資料収集は焦眉といえる。こうした一次資料の収集と並行して、亡命時代の活動に検討を加える一環として、明治・大正時代の日本でのレーミゾフ受容に関する資料を、日本国内(おもに北大図書館、国会図書館)で収集した。また、6月にワルシャワ、およびクラクフ(ポーランド)でポーランドのモダニズム潮流「若きポーランド派」関連の資料収集を行った。これは亡命ロシア文化の、ロシア・モダニズム全体における位置づけ、延いてはヨーロッパのモダニズム全体における位置づけを明らかにするべく、その第一段階としてポーランドとロシアのモダニズムの相互的影響を探ることを目指して行った。現在、上記の資料をもとに研究を進めており、次年度以降、順次、成果を発表予定である。
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