本研究は、レーミゾフの言語・視覚芸術作品や、活動実態の分析を通して、彼の属した20世紀前半の亡命ロシア社会と、それを包含するヨーロッパ・モダニズム文化について検討するものである。最終年度にあたる平成23年度は、イギリスで行われた国際学会で日本におけるロシア・モダニズム受容について、これまでの研究者との議論を考慮に入れて発展させたものを発表した(4月)ほか、ベオグラード大学(セルビア)で招待講義を行い(4月)、議論を深めた。さらに、フランスで個人蒐集家の所蔵品調査を行い(5月)、画集として出版されているものも含めて、作品の技法・テーマを、作家の文学作品と照らして分析した。またポンピドゥー図書館にてカンディンスキイとの書簡を入手、現在分析を進めている。22年10月日本ロシア文学会の発表原稿をもとにした論文を、上記フランスでの調査結果も考慮に入れつつ仕上げ、学会誌に投稿、掲載された。また、レーミゾフをはじめとするロシア・モダニズムの日本における受容について、比較文学的観点から調査を進めつつある。なかでも、大正時代の刊行物のうち、ロシア人作家を描いたカリカチュアが掲載されたパンフレットの背景の調査から、ロシア・モダニズムの最大の移入者と目される日本のロシア研究の草分け昇曙夢の功績の他、これまでほとんど無視されてきた日本学者セルゲイ・エリセーエフの果たした役割を明らかにし、ロシアとイギリスの国際学会にて発表した。このとき亡命ロシア研究者と討議した問題点を考慮に入れ、ロシア文学研究所発行の論文集に投稿、受理されている(近刊)。
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