今年度は引き続き、ビュフォン『博物誌』の概念的な骨子を中心に検討した。『博物誌』第1巻における「序言」におけるビュフォンの脱デカルト的な科学的探索の手法の分析から初めて、「動物誌」において展開された動物発生論、具体的には「内的鋳型」の名で知られるビュフォン独自の発生理論の仕組みと射程を再検討し、最終的に得られた成果をビュフォンが別の機会に執筆した「文体論」における文体の生成理論と比較検討することで、生物界の理論と修辞の理論とのアナロジカルな関係を抽出することができた。こうした手続きを経て、博物学的な視座から形成されたビュフォンの思想が有する生物学史上の意義および文学理論上の意義を明らかにすることができたと考えられる。とりわけ文体理論が彼の生物理論とはっきりしたアナロジカルな関係におかれていることは、従来まで指摘されてこなかった事項として特筆すべきものであると考えられる。 上述の成果は国内外でそれぞれ発表され、多くの研究者から批判的に吟味する機会を設けることもできた。国内では十八世紀学会にて発表し、当時の生物理論との関係の詳細や、新プラトニズムとの関係についての教示を得ることができた。また海外では国際美学会にて発表し、十八世紀の博物学理論とアクチュアルな環境思想との接点を模索するきっかけについて多くの示唆を得ることができた。他にも、今年度に刊行した著書『ディドロの唯物論』内の補論においてビュフォンを論じた章を設けたが、執筆箇所の再検討に際して本研究の成果が適用され、確認された文体論と生物の発生理論との図式的な類似性についてそれを公表することができた。
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