最終年度となる2011年度はビュフォン『博物誌』の前半部における動物の存在論と発生論を中心に検討し、動物と人間をめぐる当時の議論のなかに位置づけることを試みた。この課題自体は初年度から進められていたものではあるが、2011年度において具体的な進捗を見せ、論文を公刊するにまでいたった。 具体的には今年度は、『博物誌』と刊行期日が近く、『博物誌』同様広い読者層に受け入れられたダランベールとディドロの編集による『百科全書』における「動物」項目との比較に重点を置いて研究を進めた。その結果として析出されたのは、理神論的な視座を保ちつつ、それが表面に出ることを慎重な仕方で避けようとしたビュフォンの思考と、そのような理神論的立場から離れてラディカルな無神論を打ち立てようとした両者の姿が、1750年前後に明白な対照として見いだされるという点である。ビュフォン的理神論とディドロ的理神論が接合するテキストとして本研究が注目したのが、『百科全書』第1巻にある項目「動物」である。本項目はビュフォンの『博物誌』の引用の抜粋に、ディドロが独自のコメントを加えるという仕方で執筆されたものであり、両者の間テキスト性の検討を通じて、ディドロによるビュフォン注解の作業がもつ思想的な含意を詳細において測定することができた。 上述の論点に関して、夏にオーストリア・グラーツでおこなわれた国際十八世紀学会において口頭発表を行った。また、それをもとにして日本語による論文一編を専門学術誌に掲載することができた。
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