平成23年度は、本研究課題となっているテーマに関する総合的な論考としての『世界周航記』論のまとめ作業をおこなう最終年度であった。 最終的にはこれまでの年度で取り組んできたゲオルク・フォルスター『世界周航記』論を単著としてドイツの出版社で無事に上梓することができた。すなわち、このテクストを、いわば当時の「自然科学と文化史のデータベース」として、その一方で同時に「文学テクスト」として分析するという両面から分析した論考である。 夏季休暇期間には、ドイツのゲッティンゲンで長期滞在し、Pauliner Kirche(Niedersachsische Staats-und Univesitatsbibliothek)で調査や資料収集をおこなった。本研究課題を遂行するための最終的な情報収集と修正、およびこの研究テーマのさらなる深化をおこなえたゆえに、次年度以降へのテーマ探求にもつながる成果を獲得できたのである。 また、フォルスターと研究交流があった同時代の解剖学者・美術理論家ペトルス・カンパーの著作『さまざまな地方と年齢の人間における容貌の自然の差異について』(通称、顔面角理論と呼ばれる)は、本研究課題と関係が深いものであるが、研究過程での精読をおこなった成果として、これも本邦初訳で出版できた。 ゲオルク・フォルスター『世界周航記』に関する研究は、ドイツ本国においても、それほど多くはないために、そのテクスト研究史に少なからず寄与できたこと、さらに副次的ではあるが、カンパーの著作の訳書もはじめて日本で出版できたことは、本研究課題の成果として一定以上の意義をもつと考えられる。
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