本年度は、平成21年度に実施した基礎的作業、即ち宋代の代表的な文人(具体的には、欧陽修、曾鞏、王安石、蘇洵、蘇軾、蘇轍、黄庭堅、張耒、王十朋、陳与義、陸游、范成大、文天祥など)の詩文集に対して実施した「三国志物語」の抽出作業、並びに各資料中に用いられる人物呼称の抽出作業を基礎データとして用い、三国時代の人物に関する呼称データベースを活用した『全宋詩』中における「三国志物語」の全面的な調査を実施した。『全宋詩』は九千人を超える宋代詩人の作品を収録しており、総字数は三千七百万字余りに及ぶ、宋詩の一大集成資料であると同時に、近年北京大学によって製作された「全宋詩分析系統」を活用することにより、同書の全文に対する電子検索が可能となった。一方、検索に際しては適切なキーワードの選定が欠くべからざる要件と言え、「三国志物語」に関連する詩語を効率的に取り挙げて検索を行う上で、上記の人物呼称データベースを用いた「全宋詩分析系統」の検索は極めて有効であった。 その中から、先行研究において未だ言及のなされていない「三国志物語」にまつわる詩句を多数見出すことが出来た。これらの資料に対しては目下、各詩人別に編まれた校注本等による字句異同の調査、並びに作品内容の読解作業を並行して実施している状況である。なお、この間の成果の一つとして、宋代の資料から見える「三顧茅廬故事」の受容形態を考察した、「「三国志物語」の形成-三顧茅廬故事を中心として-」を査読付き論文として公開するに至った。
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