平成21年度の研究活動は主に以下の2点である。 (1)近代日本における朝鮮人留学生に関する調査・資料収集 主として国立国会図書館所蔵の図書・雑誌資料を対象に調査活動を行い、資料の所在を確認、整理、収集、リスト作成作業を行った。また資料より1920年代前後の朝鮮人留学生たち-特に廉尚燮、南宮璧、閔泰〓、呉相淳、卞栄魯、羅〓錫ら、廃虚同人一の活動や思想についてまとめ、朝鮮人青年知識人たちの西洋文化受容およびそれに対する日本文化の役割に関し、分析を行った。特に平成21年度は羅〓錫、閔泰〓の文章を主な対象とし、彼らの日本・西洋文化および柳宗悦・柳兼子に対する見方について考察を加えた。羅〓錫の文章からは西洋絵画を学んだものとしての視点が日本の情景に反映されて理解されていることや、廃墟派同人たちが柳宗悦の活動に賛同しつつも、彼ら独自の思想から積極的に柳の活動に関与していった有様などを読み取ることが出来た。 (2)柳宗悦の西洋文化受容に関する研究 (1)に並行して、柳宗悦の西洋文化受容に関する研究、特にのちの朝鮮美術評価、民芸運動へとつながる西洋中世(ゴシック)美術への関心について、同時代の日本人知識人(特に有島武郎など)との比較を通して考察を加えた。柳の中世への関心は、それまでの天才主義的な立場から無名の民衆の生み出す美を賛美する立場へと視点を変える転換点となった。朝鮮芸術を評価した20年代、柳は一方において宗教哲学あるいは美学的な立場から中世を賛美する研究活動を行っていた。柳と交流をもった朝鮮人たちもまた、例えば南宮壁のように柳から西洋文化を受容していた一側面を持つ。そのような朝鮮と日本、近代の関係性をより精密に明らかにする上で、重要な知見を得ることができた。
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