本研究の目的は、子どもの生得的言語能力と言語獲得過程、ヒトの言語処理メカニズムを実証的データに基づいて解明することであった。本年度は、これまで同様にまず研究対象となる複文構造を持つ文の分析方法についての先行研究を検討し、言語学分野における本研究の位置付けについて考察した(消耗品図書支出)。また同時に、当該構文の獲得や処理に関する先行研究を収集、整理し、実験方法などについての検討も並行して行った。 それを基にし、昨年度までに実施した、4才~6才の子どもを対象とした「あげる・もらう」などの動詞を含む授受動詞文に関する実験研究を雑誌論文として発表した(The Proceedings of the 12th Tokyo Conference on Psycholinguistics)。「もらう」授受動詞文は2種類に分類され、その一方のみ獲得が遅れることを示し、先行研究では明らかにされなかった獲得データを提供することで、獲得を遅らせる要因を絞り込むことができた。 また大人を対象とした複文構造に関するERP(事象関連電位)実験の成果を論文として発表した。日本語再帰代名詞「自分」を含むコントロール文のオンライン処理について、その「自分」の解釈が逐次的にされるのではなく、曖昧性が消える箇所まで保留されている可能性についてERP実験データに基づいて議論した。 さらに、子どもによる「かき混ぜ文」の理解についての実験も行い、国際会議(Generative Approaches to Language Acquisition)において発表した。かき混ぜ文は通常の文よりも理解が難しいとされるが、それはかき混ぜ文の知識を獲得していないからではなく、その知識を実験の中で使用できないからであるということを、助詞の強勢を調整した刺激文を利用することによって示した。
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